葉桜陽(フリーライター)

メディアにとって事件や不幸はネタであるというが、いつの間にか、私も同じことをしていた。

 

文章を書く仕事をしていると、関心のないことを調べる機会が多くある。テーマに詳しくなければ、意見も感想も書きようがないので仕方ない。興味のなかったことも、目を向ければ案外おもしろかったということも多々あるし、なにより、知識により自分の世界が広がるよろこびは快感である。 

 

商品紹介やレポートはもちろん、小説や随筆を書くにも、調べることは尽きない。少子高齢化、過疎化、地球温暖化といった社会問題を扱う場合もまた、半端な知識ではいけないから、よく調べ、自分の考えを持って、ようやく文字にするのだ。

そうして出来上がった記事では、偉そうに政策批判や解決策をいっている。しかしどうだ、ライターとしての仕事を遂げた私は、もうすっかり問題など他人事である。

 

木の一本も植えないじゃないか。過疎地域の町おこしを手伝うなり、町を記事として取り上げ注目を集めることだってできたはずだ。私は問題解決に貢献するすべを持ちながら、何もしない自分を許すことはできない。

 

いま、障がい者や高齢者の介護の手が不足している。保育士もそうだ。正直に言えば美味しいネタである。賛否両論飛び交い、政策は穴だらけ、全国民に関係する問題だ。私のような偽善者にとって最高級のカモである。

ほんとうに心から彼等のことを想って文章を綴れる人が一体どれだけいるだろう。

 

障がい者や高齢者のために私にできることは少ない。私はヘルパーではないからだ。私にできることは、文章にして伝えることである。

障がい者や高齢者の声、日々彼らを支えている人たちのこと。私と同じように問題を認識しながら他人事だと思っている人たちが、介護に関心を持つような言葉を発信することができる。

それが、私のできる介護である。

 

「健常者と障がい者の共生」

なんとも退屈な言葉である。すこし頭をひねれば、もっと耳心地のよい響きはいくらでも出てくる。

ただ、こんなにも心に響く言葉に触れたのは久しぶりだ。健常者や障がい者と聞くと、どこかに差別の意思を感じてしまうが、この言葉には、それを恐れない力強さが感じられる。私なら、「障がいを持っている方」というふうに柔らかくして言ってしまうだろう。

私は、この言葉を掲げる人たちを、書きたいのだ。書かなければならない。

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